闇の Cambria Math に対する防衛術

というわけで

Word と PowerPoint の数式ダサくない? wowwow↑

Cambria Math の悪口

個々人の美的価値観に依るところが大きいのですが、私からすれば LaTeX でデフォルトに指定されている Computer Modern (とそこから派生した各フォント群)に比べて、Word や PowerPoint で数式用に指定されている Cambria Math は見難いというか、好きにはなれませんでした。游明朝と創英角ポップ体ぐらいのダサさの差を感じると言っても過言ではないかな。

別に単にダサいと感じるか否かなら好きにすれば良いのですが、Cambria Math にはそれなりにダメな点がございまして。

例えば、アルファベットの"v"とギリシャ文字の"ν"を見比べると、

f:id:sGya_youtoo:20201208165759p:plain
(左から、"ブイ(イタリック)", "ニュー", "ニュー(イタリック)")

正直 Cambria Math だと見分けつきにくいんですよね。この画像ぐらい大きければまぁ良いのですが、A4資料に10pt程度で書かれると更に酷くなるわけで。化学流体力学の講義資料で何度も「え、これνだよな…教員ミスってる? それとも見間違い…?」を経験したのでもう嫌。

これまでは基本的に数式が一定数混じることが予見される文書の作成には Word ではなく LaTeX を用いることで Cambria Math との関係を断っていたのですが、そうは言っても今後研究室に配属されると化学系故 LaTeX より Word メインで文書作成しそうですし、発表の機会も増えて PowerPoint の使用頻度も上がりそうです。そんな時に創英角ポップ体……じゃなくて、Cambria Math を使いたくないなぁというモチベの話です。

闇の Cambria Math に対する防衛術

Word と PowerPoint で数式を挿入する際に Cambria Math を使わないようにする方法を紹介していきましょう。

Word

Word に関しては比較的楽です。日本機械学会の資料*1が詳しいのでそれに沿って紹介します。

数式ツール
  1. Latin Modern Math をCTAN: /tex-archive/fonts/lm-math/opentypeからダウンロード、インストール
  2. Word を起動し、適当に数式を挿入
  3. [数式]タブを選択し、[変換]の右下矢印で[数式オプション]を開く
  4. [数式エリアの規定のフォント(F)]で "Latin Modern Math" を選択し、左下の[既定値として設定(D)]を押す

だけで、数式ツールを用いた際に Latin Modern Math がデフォルトで使われるようになります。

本文

数式ツール無しに数式フォントを使いたい場合は、CTAN: /tex-archive/fonts/lm/fonts/opentype/public/lmから lmroman10-#.otf (# = {regular, italic, bold, bolditalic})、更にギリシャ文字用としてCTAN: /tex-archive/fonts/cm-unicode/fonts/otfから cmunrm.otf をダウンロード、インストールすれば使えます。

英数字用の既定フォントをこれに設定したい場合は、Microsoft のサポート*2に則って操作すれば良いです。ここで、以上でインストールしたフォントは "LM Roman 10" で指定できることに注意してください。

以上の設定をした上で Word で数式混じりの文章を書くと、以下のようになります。別行立てしている数式2つは数式ツールを用いて、その他地の文に関しては英数字に LM Roman 10 を適用しています。

f:id:sGya_youtoo:20201208221502p:plain

及第点と言えるのではないでしょうか。

PowerPoint

Word では割とすんなりとフォントの変更が出来ましたが、PowerPoint は残念ながらそうは行きません。

同じ Microsoft が出しているソフトのくせして諸々の仕様が違うの本当にカス

もはや、既に LaTeX で清書してある内容を PowerPoint に移して発表スライドを作る場合は、LaTeX から生成される PDF ファイルのスクリーンショットを貼り付けて行くのが一番賢いまであります。

ただそれだと面白くないので、PowerPoint 上で LaTeX を直接編集出来る方法を紹介します。使い勝手も悪くないですし、例えば下で挙げる例みたいに背景を非白にしている状態で PDF のスクショを貼り付けると白背景が目立ってしまいますが、こちらの方法だと背景透明の PNG として出力してくれるのでそんな心配も要りません。

さて、詳しい紹介に移りましょう。

IguanaTeX

IguanaTeX という PowerPoint アドインが存在します。
IguanaTex - A Free Latex Add-In for PowerPoint on Windows

前提として、TeXLive 等の TeX 環境が整っていないといけません。そもそも以下で数式を打ち込むには TeX の記法が必須なので使う人は皆揃っているとは思いますが、これが初めてだよって人は
texwiki.texjp.org
辺りを参考に環境を作っておいてください。

IguanaTeX の導入方法は、

  1. 上記リンク先から最新バージョンをダウンロード(.ppam ファイル)
  2. ダウンロードした .ppam ファイルをアドイン用フォルダ(※下記アドレス)に移動
  3. PowerPoint を起動し、[Alt]→[T]→[I]でアドインダイアログを表示
  4. [新規追加]を押して、先程ダウンロードした .ppam ファイルを選択
  5. そのまま閉じると、上部に[IguanaTeX]タブが追加される

※アドイン用フォルダ

C:\Users\[ユーザー名]\AppData\Roaming\Microsoft\AddIns

といった感じ。

導入後の画面はこんな感じになります。
f:id:sGya_youtoo:20201209212632p:plain

実際に使っていくには、まず[New LaTeX Display]を押してエディタを表示。
f:id:sGya_youtoo:20201209212907p:plain

見慣れた LaTeX の編集画面が出てくるので、ここに数式を打ち込んで[Generate]を押せば自動で .png 画像を生成してくれます。一応、使うエンジンとかは好きなものに変更出来るのですが、他のツールを導入する必要があるのと正直デフォルトで十分なので私は触ってません。

ただ、普段使っているコマンドとかが動かないと、別の LaTeX ソースから数式を直接持ってきても上手く行かなくて悲しいので、その辺りも楽にしておきましょう。

先の画面で[Use templates]を選択します。
f:id:sGya_youtoo:20201209214048p:plain

ここから、[Import input code]を押して、プリアンブルに必要なパッケージや自作のコマンドを入れていきましょう。また、本文部分に\begin{align*} \end{align*}を入れておくと楽です。

自分の好みのテンプレートが完成したら、[Template name: ]の名前を適当に変えて、[Save template]を押して保存しましょう。最後に、[Make Default]を押しておけば下準備は完了です。

実際に使う際には、[New LaTeX Display]を押した段階でさっきの画面になるので、[Select a template: ]で自分の作ったテンプレートを選択して、[Load to input code]を押してから数式を打ち込んで、[Generate]を押せば数式画像が出力されます。

既に作ってしまった数式画像を変更したい場合は、その画像を選択した状態で[IguanaTeX]→[Edit LaTeX display]で編集可能です。0から書き直さなくて良いので便利ですね。

以上の設定をした上で PowerPoint で数式混じりの文章を書くと、以下のようになります。下の4行は IguanaTeX を用いて(align 環境なので位置揃えもそのまま出来て便利)、その他地の文に関しては英数字に CMU Serif を適用しています。テーマはスライドマスターを使って自作したやつです。

f:id:sGya_youtoo:20201209140614p:plain

うん、綺麗。

こぼれ話

さて、以上で一先ず Word や PowerPoint で綺麗な数式を(比較的便利に)使えるようになったわけですが、細かいとこを突けば実はまだ改善出来る点があります。

Word の数式ツールの欠点

例えば(上の例では意図的に避けましたが)、PowerPoint の作例にある v_z(r)の式と同様のものを Word で数式ツールを使って作成すると、以下のようになります。
f:id:sGya_youtoo:20201209220722p:plain

Word と PowerPoint での差があるのにお気付きでしょうか?

そう、"Δ" に適用されているフォントが違うんですね。Word の方は何故か少し縦長になってしまっています。理由は簡単で、Latin Modern にギリシャ文字が含まれていない(?)ため、"Δ" に游明朝を適用してしまっているからです。これを修正するには、"Δ" を選択してフォントを CMU Serif に変えてやれば良いです。
f:id:sGya_youtoo:20201209221346p:plain

このように、普通に LaTeX で出力したのと同じ見た目になりました。めでたしめでたし。

CMU Serif と Latin Modern と ギリシャ文字

まだ完璧ではないんですよね。神経質な方ならお気づきかもしれませんが、PowerPoint の作例で地の文の "μ" と数式内の "μ" の見た目が違います。

この辺りが自分まだ良くわかっていなくて、『LaTeX 2ε 美文書作成入門』でも

Latin Modern フォントは、基本的には Computer Modern フォントと全く同じデザイン

とありますし、アルファベットに関しては実際に見分けつかないので、地の文として CMU Serif を使おうが Latin Modern を使おうが一緒のはずなんですよね。PowerPoint 作例にてギリシャ文字で表示が違うこと、及び Word の数式ツールで初手 "Δ" に Latin Modern が適用されていないことから、恐らく Latin Modern ではギリシャ文字が使えないんだろうとなるわけですが、それなら普段 LaTeX で使われてるギリシャ文字って何のフォントなんだ……? という話になって。

詳しい方いらっしゃったら教えていただけますと幸いです。

最後に

皆様が Word や PowerPoint でクソダサ数式を使わなくて済みますように。

記事の内容に関して何かありましたら、コメントなり私のTwitterアカウント[@sGya_youtoo]までご連絡なり頂ければ幸いです。