混成軌道に対する勘違いに今更気付いた話

というわけで

群論ゼミに行ったはずなのに混成軌道の話で2時間弱溶けた回と、その後のゴタゴタのまとめです。わかったつもりって怖いですね。 \newcommand{\bra}[1]{\langle #1|} \newcommand{\ket}[1]{|#1 \rangle}

これまでの私の混成軌道に対する誤解

先ずは勘違いをそのまま

この記事を書くに至るキッカケだったのが先日のゼミだったのですが、先ずはそのゼミが始まるまでの私の勘違いを含めた混成軌道の説明を書いてみます。

混成にも色々パターンはありますが、先ずは簡単なsp混成軌道を考えましょう。
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同じ原子のs軌道とp軌道があって、位相が合う部分が大きくなるので右のsp混成軌道が考えられます。

s軌道、p軌道に対応する波動関数 \psi_s(r,\theta,\phi),~\psi_p(r,\theta,\phi)を用いて、2つのsp混成軌道に対応する波動関数 \Psi_1(r,\theta,\phi),~\Psi_2(r,\theta,\phi)がそれぞれ
    \Psi_1=\sqrt\frac{1}{2}\psi_s +\sqrt\frac{1}{2}\psi_p
    \Psi_2=\sqrt\frac{1}{2}\psi_s-\sqrt\frac{1}{2}\psi_p
と書けます。

同様に、sp2混成軌道、sp3混成軌道が作られます。単なる原子価結合法だと上手く説明できなかった分子形状(水分子の結合角が90度と予想されてしまう等)が、混成軌道を考えることで上手く説明出来るようになります。めでたしめでたし。

では、この混成軌道のエネルギー準位を考えてみましょう。先程と同様、sp混成軌道についてです。
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よくある説明として、

s軌道と1つのp軌道が元々は別のエネルギー準位に属していたのが、混成して中間程度のエネルギー準位を持つ2つのsp軌道になる。

というのがあります。下リンクのページなんかがこの図と同様のもので説明されてますね。

共有結合の種類と混成軌道:昇位と混成
混成軌道

私もこれまでコレと同様の解釈で「それはそう」なんて言ってたわけです。原子の状態で(都合よく)昇位・混成が起こり、中間のエネルギー準位を持つsp混成軌道が出来て、それと別原子の軌道とが相互作用して結合が出来るという解釈で。

勘違いへの指摘

そもそも電子の波動関数は何に由来するのでしたっけ? そうですね、電子の状態を記述するハミルトニアン \hat Hに対して
    \hat H \Psi = E \Psi
となる固有関数 \Psi(r,\theta,\phi)が電子の波動関数で、このときの定数 Eがエネルギー準位に対応するのでした。

細かい導出は
www.kagakudojin.co.jp
等の教科書にお任せするとして、水素原子だと厳密に波動関数及びエネルギー固有値が全部求まります。

で、となると混成軌道って何者だって話になるわけで。
    \Psi_1=\sqrt\frac{1}{2}\psi_s +\sqrt\frac{1}{2}\psi_{p}
    \Psi_2=\sqrt\frac{1}{2}\psi_s-\sqrt\frac{1}{2}\psi_{p}
と事もなげにsp混成軌道を書いてしまえるわけですが、そもそもこの関数は元のハミルトニアンの固有関数では無いんですよね。
    \hat H\Psi_1=\sqrt\frac{1}{2}\hat H(\psi_s +\psi_{p})=\sqrt\frac{1}{2}(E_s\psi_s+E_p\psi_{p})
なので、(ただし、 E_s,~E_pはそれぞれs軌道、p軌道のエネルギー準位)
    \hat H\Psi_1=E_{sp}\Psi_1=E_{sp}{\sqrt\frac{1}{2}(\psi_s+\psi_{p})}
となる E_{sp} E_s\neq E_pより存在しません。ですから、 \Psi_1 \hat Hの固有関数ではありませんね。 \Psi_2も同様です。

ということで、「s軌道とp軌道が元々は別のエネルギー準位に属していたのが、混成して中間程度のエネルギー準位を持つ2つのsp軌道になる」っていうのはマズイ解釈になることがわかります。sp混成軌道を表す波動関数ハミルトニアンの固有関数でないので、そもそもエネルギー準位が定義できません。

量子論から混成軌道を分析する

ではどう考えてあげれば良いのかなと言う話で、量子論からコレを見ていきましょう。

まず、化学では電子の状態をいきなり波動関数 \Psiで表しますが、これは量子論でよく出る状態ベクトル \ket{\Psi}から
(12/10 0:00 訂正 以下ミス)
    \ket{\Psi}=\iiint dr d\theta d\phi ~\Psi(r,\theta,\phi)\ket{r,\theta,\phi}
(12/10 0:00 訂正 以上ミス、以下正しい式)
    \ket{\Psi}=\iiint dr d\theta d\phi ~r^2\sin\theta\Psi(r,\theta,\phi)\ket{r,\theta,\phi}
(12/10 0:00 訂正 以上正しい式)
と定義されるので、ベクトルの方で上手く考えられれば関数の方も上手く行きます。

ここで、ハミルトニアン \hat Hの2つの固有ベクトル \ket{\psi_1},~\ket{\psi_2}を、
    \begin{eqnarray}
&&\langle{\psi_a}\ket{\psi_b}=\delta_{ab} \\
&&\hat H\ket{\psi_1}=E_1\ket{\psi_1}\\
&&\hat H\ket{\psi_2}=E_2\ket{\psi_2}\\
&&E_1\neq E_2
   \end{eqnarray}
となるように取ります。例えば、ある原子について \ket{\psi_1}=\ket{\psi_s},~\ket{\psi_2}=\ket{\psi_{px}}等でコレが成り立ちます。この線形結合
    \ket{\Psi}=\alpha\ket{\psi_1}+\beta\ket{\psi_2}=\ket{\alpha\psi_1+\beta\psi_2},~~|\alpha|^2+|\beta|^2=1
を考えましょう。
    \begin{eqnarray}
&&\langle\Psi\ket{\Psi}\\
&&=\langle{\alpha\psi_1+\beta\psi_2} \ket{\alpha\psi_1+\beta\psi_2}\\
&&=|\alpha|^2\langle\psi_1\ket{\psi_1}+|\beta|^2\langle\psi_2\ket{\psi_2}
      +\alpha^*\beta\langle\psi_1\ket{\psi_2}+\beta^*\alpha\langle{\psi_2}\ket{\psi_1}\\
&&=|\alpha|^2+|\beta|^2\\
&&=1
   \end{eqnarray}
なので、規格化はされていますね。

この \ket{\Psi}のエネルギー固有値 E_{12}を求めてみましょう。
    \begin{eqnarray}
&&\hat H(\alpha\ket{\psi_1}+\beta\ket{\psi_2})=E_1\alpha\ket{\psi_1}+E_2\beta\ket{\psi_2}\\
&&\therefore \lnot\exists E_{12} ~s.t. \hat H(\alpha\ket{\psi_1}+\beta\ket{\psi_2}) =E_{12}(\alpha\ket{\psi_1}+\beta\ket{\psi_2})
   \end{eqnarray}
ということで、 \ket{\Psi}のエネルギー固有値 E_{12}は存在しませんね。少し上で波動関数を用いた考察をしたものの一般化です。 \ket{\Psi}ハミルトニアン \hat H固有ベクトルではないので、当然といえば当然です。

では、この \ket{\Psi}のエネルギー期待値 \langle E_{12}\rangleはどうでしょうか。
    \begin{eqnarray}
\langle E_{12}\rangle&&=\bra{\alpha{\psi_1}+\beta{\psi_2}}\hat H \ket{\alpha{\psi_1}+\beta{\psi_2}} \\
&&=\langle{\alpha{\psi_1}+\beta{\psi_2}}\ket{E_1\alpha{\psi_1}+E_2\beta{\psi_2}} \\ 
&&=E_1|\alpha|^2+E_2|\beta|^2
   \end{eqnarray}
はい、混成軌道を表す \ket{\Psi}のエネルギー固有値は出ませんが、エネルギー期待値はちゃんと出てきます。

ついでに、エネルギーの平均値周りでのバラつき
    \Delta E_{12}:=E_{obs}-\langle E_{12} \rangle( E_{obs}は観測した軌道のエネルギー)
を考えてみましょう。 \Delta E_{12}の期待値自体は \langle \Delta E_{12}\rangle =0で何も面白くありませんが、自乗したもの( (\Delta E_{12})^2)の期待値 \langle (\Delta E_{12})^2\rangle E_{obs}の分散を表してくれるのでこっちを計算します。細かい導出は教科書(例えば、清水量子論P78)に譲るとして、

(7/2 12:45 訂正 以下ミス)

    \begin{eqnarray}
\langle (\Delta E_{12})^2\rangle&&=\langle (\hat H)^2\rangle - \langle \hat H \rangle ^2\\
&&=|\alpha|^2 E_1^2 + |\beta|^2 E_2^2 - (|\alpha|^2 E_1 + |\beta|^2 E_2)\\
&&=|\alpha|^2(E_1^2-E_1)+|\beta|^2(E_2^2-E_2)
   \end{eqnarray}

となります。また、 E_1,~E_2は原子軌道のエネルギー準位ですから当然負の値になるので、 |\alpha|^2(E_1^2-E_1)+|\beta|^2(E_2^2-E_2)>0、即ち \langle (\Delta E_{12})^2\rangle>0も保証されます。

(7/2 12:45 訂正 以上ミス、以下正しい式変形)

    \begin{eqnarray}
\langle (\Delta E_{12})^2\rangle&&=\langle (\hat H)^2\rangle - \langle \hat H \rangle ^2\\
&&=|\alpha|^2 E_1{}^2 + |\beta|^2 E_2{}^2 - (|\alpha|^2 E_1 + |\beta|^2 E_2)^2\\
&&=(|\alpha|^2-|\alpha|^4)E_1{}^2+(|\beta|^2-|\beta|^4)E_2{}^2-2|\alpha|^2|\beta|^2E_1E_2\\
&&=(|\alpha|^2-|\alpha|^2(1-|\beta|^2))E_1{}^2+(|\beta|^2-|\beta|^2(1-|\alpha|^2))E_2{}^2\\
&&~~~~-2|\alpha|^2|\beta|^2E_1E_2\\
&&=|\alpha|^2|\beta|^2E_1{}^2+|\alpha|^2|\beta|^2E_2{}^2-2|\alpha|^2|\beta|^2E_1E_2\\
&&=|\alpha|^2|\beta|^2(E_1 - E_2)^2\\
&&>0
   \end{eqnarray}

より、 \langle (\Delta E_{12})^2\rangle >0が確かめられます。

(7/2 12:45 訂正 以上正しい式変形)

なお、線形結合をとる元の原子軌道が n\ge 3個以上の場合でも、
    \displaystyle \ket{\Psi}=\sum_{i=1}^n \alpha_i \ket{\psi_i}
について同様の結論が得られます。

ですから、正しい解釈としては

s軌道とp軌道が元々は別のエネルギー準位に属していたのが、混成して中間程度のエネルギー期待値を持つ(軌道のエネルギー自体は不確定)2つのsp軌道になる

ということになります。
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原子軌道はハミルトニアンの固有関数なのでエネルギー準位が定まる一方、混成軌道はエネルギーを測定してもバラつく( E_s E_pのいずれかが観測される)のでエネルギー準位は定まらずにエネルギー期待値しか定まらないのを、無理やり図解してみるとこんな感じですかね。(昇位前の原子軌道の様子は省略)

混成軌道の正規直交性

混成軌道に何か良い性質が無いかな、という話をしましょうか。

まずは、

  • 原子軌道: \ket{\psi^A_1},\ket{\psi^A_2},\cdots,\ket{\psi^A_n}
  • 混成軌道: \ket{\psi^H_1},\ket{\psi^H_2},\cdots,\ket{\psi^H_n}

としましょう。それぞれの基底の個数については、同じベクトル空間の基底になるので等しくなります。また、原子軌道に関しては
    \langle{\psi^A_i}\ket{\psi^A_j}=\delta_{ij}
という正規直交性があります。

原子軌道から混成軌道への変換を表す演算子 \hat Cの性質を見ていけば良いことになりますね。 \hat Cに関しては、
    \displaystyle \ket{\psi^H_i}=\sum^n_{j=1} c_{ij}\ket{\psi^A_j}~~(i=1,2,\cdots,n)
となる行列 C=(c_{ij})と同様の働きをすると言えますね。なので、ここでは演算子 \hat Cと行列 Cを同一視してしまいます。

原子軌道も混成軌道も共に同じ原子の電子の状態を表しているので、その確率密度の和は等しくないといけません。そこで、確率密度の和を保存するような変換を考えるわけですが…

    \hat U^\dagger\hat U=\hat 1
となるユニタリー演算子 \hat Uというものがありまして、その性質として
    \langle \hat U\psi_i\ket{\hat U \psi_j}=\langle \psi_i\ket{\hat U^\dagger\hat U \psi_j}=\langle \psi_i\ket{\psi_j}
と、この演算子による変換の前後で内積の値を保存する性質があります。このユニタリ―演算子を用いたユニタリ―変換が、原子軌道→混成軌道の変換に要請される条件を満たすことが分かりますね。ですから、先程の \hat Cはユニタリ―性を持つはずです。

内積の値が保存されるため、

(7/1 22:30 訂正 以下ミス)
    \begin{eqnarray}
\langle{\psi^H_i}\ket{\psi^H_j}&&=\mathinner{\left\langle{\sum^n_{k=1}c_{ik}\psi^A_k}\middle|{\sum^n_{k'=1}c_{jk'}\psi^A_{k'}}\right\rangle}\\
&&=\sum^n_{k=1}c_{ik}c_{jk}~~(\because \langle{\psi^A_k}\ket{\psi^A_{k'}}=\delta_{kk'})\\
&&=\delta_{ij}
   \end{eqnarray}
(最後の式変形では、ユニタリ―行列の行ベクトル全体が正規直交基底を成すことを利用)

(7/1 22:30 訂正 以上ミス、以下正しい式変形)

    \begin{eqnarray}
\langle{\psi^H_i}\ket{\psi^H_j}&&=\mathinner{\left\langle{\sum^n_{k=1}c_{ik}\psi^A_k}\middle|{\sum^n_{k'=1}c_{jk'}\psi^A_{k'}}\right\rangle}\\
&&=\sum^n_{k=1}(c_{ik})^*c_{jk}~~(\because \langle{\psi^A_k}\ket{\psi^A_{k'}}=\delta_{kk'})\\
&&=\sum^n_{k=1}c^\dagger_{ki}c_{jk}~~(c^\dagger_{ij}=c^*_{ji})\\
&&=[CC^\dagger]_{ji}\\
&&=E_{ji}~~(E:単位行列)\\
&&=\delta_{ij}
   \end{eqnarray}

(7/1 22:30 訂正 以上正しい式変形)

となりますね。つまり、

混成軌道にも正規直交性が保証される

ことになります。

混成軌道を考える嬉しさ

軌道のエネルギーが確定する原子軌道があるのに、わざわざその線形結合をとって(正規直交性はそのままとはいえ)軌道のエネルギーが不確定になってしまった混成軌道を考えて何が嬉しいのでしょうか? というツッコミも最もです。

混成軌道の特徴は、結合が出来る方向に電子密度を割り当てたような軌道になっている点です。そのため、結合の強さ・長さ・角度についての視点を与えてくれます。

一方で、混成軌道はエネルギー準位を持たないことから、電子スペクトル等のエネルギー準位が絡む議論には不向きになります。こちらに関しては、原子軌道を使えば良いですね。

Wikipediaの混成軌道/光電子スペクトルの項について

ja.wikipedia.org

先述の通り、

  • 原子軌道と混成軌道がユニタリ―変換で結ばれること
  • 混成軌道にはエネルギー準位が定義出来ない

という点から、『混成軌道の概念は多くの分子の紫外光電子スペクトルを誤って予測するという広く信じられている間違った考えが存在する。』というよりは、混成軌道の概念が紫外光電子スペクトルの予測には不向きであるだけだと私は考えます。実際、メタンの分子軌道を構成すればその時点で一重縮退の軌道と三重縮退の軌道が出来るので、ややこしいこと考えるまでもなく光電子スペクトルの実験事実を上手く説明出来ます。

メタンの分子軌道に関しては以下のページが参考になるかと思います。
www.eng.kagawa-u.ac.jp

原子軌道と混成軌道がユニタリ変換で結ばれていることから互いに等価(一方から他方を線形結合で作れる)なため、混成軌道だけを正しいと思い込んでいる状態でもその線形結合から分子軌道を用いた説明にたどり着けてしまいます。ですから、決して『混成軌道の概念は多くの分子の紫外光電子スペクトルを誤って予測する』のは正しくないのですが、とはいえ意地張って「混成軌道でも実験事実に適合するぞ」って主張するのも何だかなという感じがします。適切なものを使って説明する方が賢いでしょ、と。勿論、Wikipediaが間違ったことを主張しているわけではないんですけどね。

(※ 多分意地張ってるとかじゃなくて単に誤解を解くためなんでしょうけれど、それにしては(計算化学門外漢の私には)難解過ぎた感があります。せめてこのぐらいは説明付けて欲しかったなぁ)

分子軌道と混成軌道

ここまで、混成軌道についてアレやコレやと語ってきましたが、混成軌道はあくまで原子軌道の線形結合をとって「現実の分子中の原子が持つ結合の形状に近くなるような軌道」を基底に取り直したものです。ですから、分子の状態については特に何も語っていません。分子軌道とは担当する領域が違うわけですね。どちらかと言えば原子軌道と似た存在と言えます。

分子軌道は分子のハミルトニアンの固有関数なので、エネルギー準位が定まります。この点でも、混成軌道とは明確に違いますよね。

一方で、特に有機化学の電子論では分子軌道ではなく局所的な軌道(原子軌道及び混成軌道)を考えて、重なりの程度等を考察することがよくあります。エネルギー準位の定まらない軌道、かつ分子全体を考慮できていないものを持ってくるなんてホントにそれで良いのか? という話なのですが。

大きな分子になればなるほど、その分子軌道は手計算で追えないものになっていきます(キレイな対称性のあるπ共役系は例外的にヒュッケル近似で追えなくもないですけど、やはり大抵の分子は無理です)。そんな中で、有機反応で変化する部位(一定数の結合)は分子の一部だったりすることが多いので、「分子の他の部分に関しては反応前後で変化しない」としてしまって変化する局所的な部分を"分子"と見た"分子軌道"を考えるだけでも定性的な議論には十分ではないか、と考えるのはそこまで不自然では無いでしょう。

その局所的な"分子"の"分子軌道"を組む上で、「結合方向に沿った電子密度を基底にとった」混成軌道の概念が適していたという話なのでしょう。妥当性がある程度保証された概念の内で実験事実を説明するのに適したものを持ってくる流れは至極当然に感じられますしね。

まとめ

  • 混成軌道は原子軌道の線形結合で表され、線形結合の仕方はユニタリ―行列で表される。
  • 混成軌道は原子軌道や分子軌道と異なり、エネルギー準位が定まらない(ハミルトニアンの固有関数ではない)。
  • 混成軌道にはエネルギー固有値が定義されないが、正規直交性は保証される。
  • 混成軌道は結合方向に沿った電子密度に対応する波動関数を基底に取っている一方、分子軌道はハミルトニアンの固有関数を基底にとったため、
    • 混成軌道は結合の強さ・長さ・角度に対する議論に適する。
    • 分子軌道は分光スペクトルに対する議論に適する。

追記

7/2 17:40


だそうです。私(この記事)での使い方だと

という書き方なので、しっくりこない方はリンク先のTweetを参考に適宜読み替えして頂ければと思います。

7/3 21:50


だそうです。私は主に有機化学で混成軌道を援用して結合方向に沿った基底で考えるやり方に長い間頼っていたのと、シュライバーアトキンス無機化学の局在軌道の項での書き方から、「混成軌道に意味を見出す(混成軌道を考える正当性を考える)」という立場に寄って書きました。これは計算化学の方から見ると無理のある議論だったようですね。

12/10 0:00

状態ベクトルの基底 \ket{r, \theta, \phi}での表示の部分に誤りがあるという指摘を受けて訂正しました。ご指摘感謝@fumofumobun

参考

謝辞

まずはこの勘違いに気づくキッカケとなった化学ゼミ(1年の頃は有機化学だけだったけど今は群論とかもやっててもはや「有機ゼミ」とは呼べ無さそう)。高校の頃には「それはそう」って軽く流してたような混成軌道の話で2時間弱ちゃんと議論出来たのは凄く楽しかったです。お陰でこんな記事を書くに至りました。

偶然その回に居合わせた数学方面(多分)の人にも大いに助かりました。計算あまり好きじゃないからって定性的な議論に寄りがちな挙げ句、「大体こういうことなんだけど上手く言語化出来ないや」って辛くなってたところをスパッと数式の話に持っていって下さったお陰で考えやすくなりました。アレの有る無しで量子論での考察にたどり着くまでの時間結構変わってた気が。

Twitter等で質問に付き合って貰った物理寄りの人達にも、キチンとした形で纏める上で不安な点を気軽に投げてアドバイス貰ったりと助かりました。他分野に強い人間が周りにいると、ちょっとそっちの知識要るけど自信無いな…って時に助かりますね、毎度のことながら。

最後に

駒場で物理寄りの人間に質問しやすい今の内にとっとくか」ぐらいの軽い気持ちで量子論とってみたお陰で今までフワッと理解した(つもりになっていた)部分を考え直すことが出来ました。とっててよかった量子論

最初にも書きましたが、わかったつもりって怖いですね。化学やってく上である程度は「そういうもん」として飲み込んで行かないと先へ進めない場面が存在しますが、過去に「そういうもん」としたものは今の理解から見ても妥当か? ってのはしっかり見つめ直していかないと思わぬ落とし穴になりかねません(自戒も込めてエラそうなこと書いちゃった)。

というか高校の時に同級生相手に化学グランプリ対策で授業した際、この辺りの話をしてたとしたら十中八九「混成軌道は同じエネルギー準位を持つ云々」って大嘘を説明してたはずなんですよね。もしそうだとしたらマズイことしましたね。そんな昔のことはとうに忘れてくれてたら良いのですが。くぅー! 神楽erの弊害かーw すまんこ…ハッ待って今のナシ! すまんです、すまんなんです、すいません! すいません!! すいません!!!…


記事の内容に関して何かありましたら、コメントなり私のTwitterアカウント[@sGya_youtoo]までご連絡なり頂ければ幸いです。