折り紙と共役二重結合で遊んでた話

というわけで

折り紙を活用して、化学における三次元的な軌道を視覚化するという、野島高彦さん(野島 高彦【化学】 (@TakahikoNojima) | Twitter)さんのアイデア(下記スレッド参照)


を発展させて、共役二重結合を再現した過程をココに纏めておきます。

背景

ココで深くは立ち入りませんが、分子の構造を理解する上で、分子軌道やそれを構成する(混成した)原子軌道の形をを把握することが重要になります。

教科書もカラーの図を出すなど色々と工夫してはいますが、それでも人によっては分子軌道や原子軌道の形を把握し辛いこともあります。三次元的な形をしているものを紙面の二次元で表現するのが難しいわけですね。

「二次元で表現できないなら三次元で表現すればいいじゃない!」という発想で作られた(多分そう)のが、野島さんの作られたペーパークラフト教材になります。(なお、そのファイルはこちら↓で配布されています)
t.co

で、


というわけで、「共役二重結合を再現する折り紙をどうするか」というのが課題となっていました。私がやったのは、コレに対する一つの解答案ということになりますね。

第一案


野島さんのTweetを見てすぐに作ったのがコレです。

単純に長方形の紙を縦横にn等分して、適当なところを切った上で組んだものになります。
ただ、コレだと

  • 三面分しかない(写真下には面があるが、奥には無い)
  • sp2の一つのローブが書けない(写真ではありえないとこに書いてますけど、本来は切れて無くなってるとこに書きたい)

と、問題が幾つか出てしまうのでダメなんですね。ただし、非常に簡単に作れるという点自体は利点でもあります。

第二案



第一案の切り取る部分を工夫することで、課題であった

  • sp2の一つのローブが書けない

を解決したものです。気軽に量産出来るように、PowerPointで作図もしました(この図は、記事下部でリンク貼っときます)。

問題点としては、

  • 相変わらず三面分しかない
  • 切り取ったパーツを貼り合わせるor点で繋がった千切れそうな紙を折って組み立てる 必要がある
  • 紙を二枚使う

というのがあります。簡単さの面で言えば、第一案程ではないですけどまだマシな部類ですね。

第三案


第二案の時点で、よくよく見れば

  • 三面分しかない

が解決出来てしまうんですね。対称性有るので、2つ第二案を組んで貼り合わせれば四面分出来るわけです。

ここまでで、一先ず共役二重結合の再現はかなり良いところまで出来た、という感じです。折る簡単さ、再現性の高さ、綺麗さの観点からバランスが良いのは、第三案かなってところです。

第四案


という気付きを経て、
が出来ました。第一~三案と同じ三面構造ですが、第一~三案とは作っている面が違います。こっちの方がpzがCとHで張られる平面に垂直に立ってるのがわかりやすいかも知れません。ただ、紙の使い方の都合上纏まりがあんまりよろしくないのが難点ですね。組むのは第二、三案よりちょっと簡単かな、という感じです。2つ作って張り合わせれば四面にも出来ますが、それはまぁ自明なのと作るのが面倒なのでこの案はここまで。

第五案


試験前だし止めとけば良いものを、欲しい部分構造を最小限の切り込みから作り出す方法を見つけてしまったんですね。

で、コレを繰り返し配置しつつローブも書いた上で組んだのがコレになります。

一枚の紙から共役二重結合を再現する折り紙がコレで完成しました。やったね。

更に言えば、これまでの案では出来る部分構造の都合上、テープを使わないと見た目がキレイになりにくい難点がありましたが、今回のは目立たないところ(共役結合でのC-C間σ結合)のところをホッチキスで止めるだけで殆ど良い感じに纏まる利点もあります。ホッチキスだと止めてみないとどこに針が刺さるか分かりにくい難点もあるので、手元が見える普通の針で先に穴だけ開けて、そこをホッチキス針等で止めるほうがキレイで確実かも知れません。

ただ、折る難易度が格段に上がってしまったのが難点ですね。というのも、簡単な折り紙(折り鶴等)だと一回一回ペタンっと平面に折っていく段階を踏めば出来るのが、この構造を作るには(折り目に癖をつけた上で)一気に組み上げないと完成しないんですね。なので、組む途中でクリップ等で要所を止めながら折るなどの工夫が必要になります。厳しい。その分折るの楽しいし達成感も有るんですけどね。

折り方

下のリンクにある展開図を印刷して、折り目の癖を付けて…

各小構造の部分を一度軽く折って…

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要所をクリップで止めつつ…

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良い感じに組み上げて…

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はい。

ホッチキスで要所を止めて…
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はい。

展開図配布

drive.google.com
上記GoogleDriveに、第二、四、五案の展開図を.pptxと.png形式で置いてあります。
見方としては

  • 黒線:山折
  • 黒点線:谷折
  • 橙線:切り線
  • 青矢印:この先の橙線と黒線の交点は、切り離さないほうが良いかも(切り離してしまっても作れます)。
  • 緑楕円:炭素原子の混成軌道

になっています。黒線と黒点線は若干曖昧(特に第五案)ですが、その辺りは適宜良い感じに折れば出来ます。どの道、初手で折り目の癖をつける際は線に従って折れば良いと思います。組む時に調整してやれば間に合うので。

後は必要に応じて他原子や電子や結合の様子を書き込めば良いとは思いますが、そこの自由度は残す方針にしました(細かい点を配置していくのが面倒なわけではないです、本当本当)。

最後に

sgya-youtoo.hatenablog.com
の続編書く前にこっちが先に折り紙系で上がりました。

直線型分子なら簡単に済むのが折れ線型分子になるだけで折り紙による再現がかなり難しくなりましたね。他にも再現できたら面白そうかも。水分子とか良さそう。

ところで、この辺りを複雑な折り紙抜きで簡単に、しかもよりキレイな三次元構造として再現出来るツールがあるんですよ。分子模型って言うんですけどね。

はい、分子模型が手元にある人はそっちの方が手軽かつキレイです。この折り紙は、教育時に生徒の大半が分子模型を持っていない、かつ組んだ分子模型を回すのも難しいなんて時ぐらいしか出番ないかなぁ。でも、折り紙好きな人には楽しいものだと思いますよ。

記事の内容に関して何かありましたら、コメントなり私のTwitterアカウント[@sGya_youtoo]までご連絡なり頂ければ幸いです。